悲劇のヒロイン、サーシャ。父である守の死を知らずに健気に古代と語り合うシーンも良いのですが、運命を受け入れて偽の地球に残るこのシーンも、サーシャの存在感を示す1枚として重要だと思います。
その他、印象に残るシーンは、ラストでスターシャの胸に帰っていくシーンですが、宇宙にセル画を載せただけではとても味気ないものです。そこで透過光と特殊処理の施されたフィルムから掲載しようと考えましたが、35mmフィルムの撮影済みフィルムは使わないという本書の趣旨に反してしまうのであきらめました。(透過光を利用したシーンで印象的に残るシーンは、今後何らかの形で本に出来ればと考えています。例えば「さらば~」では、テレサのシーンでの透過光が効果を上げていましたね。「永遠に」のラストのサーシャとスターシャも鮮やかでした。それにLDボックスでのジャケット絵も透過光が指定されていたことも忘れてはいけません。透過光はヤマトの代名詞ですからね)
サーシャは、この1作のためだけに登場した(聖総統やサーダもそうですが)主人公の存在も脅かすほどの魅力的な女性でした。ヤマトシリーズの女性を担当することとなった高橋信也氏の代表作ともいえるキャラクターでしょう。
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87ページ アルフォン少尉
「まだ、動いてはいけない」の第一声が魅力的でした。
格好良かったです。野沢さんの声が、これほどマッチする、いや野沢さんの声をイメージして作ったキャラクターとしか思えないほどマッチしていました。解説にも書きましたが、このカットは2回使われていて、最初はピンぼけから始まっていました。ピントが合ってからマジマジと見ると女性にはたまらない(平成の流行語でいう)イケメンだし。
肌の色がガミラスの青、白色彗星帝国の緑とピンクだったこともあり、ビミョーな色になっていますよね。紫でもないし、グレーでもない。青でもない。髪の毛は、ヤマトシリーズ共通の金髪であることは、見逃せません。
「ヤマトよ永遠に」も、公開当時の秋に26分割して、細部のドラマを作って見せてもらいたかったです。パルチザンの戦い、古代とサーシャの愛の行方、そして、ユキとアルフォン少尉のラブロマンス。(過日、本の制作を手伝いに来てくれたヤマトを知らない女性に「永遠に」のストーリーを掻い摘んで説明したら、昼ドラマよりもドロドロした内容であることに驚いていました。地球に残された古代の婚約者ユキは、敵の将校に捕まってしまい愛を告白され、人類のために愛を受け入れるか迷う。地球を離れた古代は、同乗した姪っ子に愛を告白され苦悩する。艦長は戦闘中に負傷し感情的になった古代は、敵の本星を波動砲で撃とうとするが姪っ子が残っていて撃つことが出来ない。そのころ、地球では、アルフォン少尉とユキが敵味方に分かれて対峙してしまう。さて、どうする?という内容は、まさに昼ドラ)
「永遠に」の代表として、この絵を1枚セレクトしました。「永遠に」から背景美術も撮影技術も格段に向上し完結編で昇華していくわけですが、ヤマトを「さらば~」までとするファンとは、違った方向でも楽しめるので微妙なところです。「永遠に」への橋渡しとなったヤマト2がなければ、2009年の「復活篇」すらなかったのですから不思議なものです。
86ページ 白色彗星帝国見参!
この絵こそ、まさに「さらば宇宙戦艦ヤマト」!ですね。堂々たるズォーダー大帝に、宇宙で最強の帝王としての風格を感じます。これだけの強敵を前にヤマトは、古代はどうやって闘うのだろう?と思いめぐらせたものです。
あの夏の日、徐々に露出が増えてくる「さらば」の情報。それが「絵」であったり「文字」であったりで心躍らされたものです。
作品を表現するキービジュアルは、アニメ雑誌などに幾度となく掲載されたので採用しない方針の「Proud of YAMATO Visual BOOK」ですが、この絵だけは別格です。湖川氏の力の入ったデッサン力に目を奪われます。
また、背後に飛翔している空母や艦載機は、蒼い宇宙空間に写真を切り抜いて貼り付けてあります。恐らくセル画に描かれたものを写真用のカメラで撮影し、縮小プリントして(サイズから縮小サイズを計算して!)貼り付けています。ここは、カメラマンや現像スタッフ(?)の腕の見せ所です。
また背景の宇宙は、水色に近いほど明るく、雑誌などで見ていた絵が頭の中に残っているので違和感を持ちます。ロードショー別冊では、本書よりも更に露出を落として暗く撮影しています。ズォーダー大帝のコスチュームが背景の真っ暗な宇宙に溶け込んでいると思います。恐らく、敵の不気味さを出すために「暗くしろ」と指示を出したのではないかと思います。
PCが発達している現代では、例えばフォトショップやイラストレーターなら、バウンディングボックスがキャラクターに付いていますから、四隅のどこかをドラッグすれば、画面の中で拡大、縮小が自由自在です。
当時のアナログ全回だった頃の苦労が偲ばれます。
84,85ページ デスラー総統
「さらば~」において、デスラー総統の担った役割は決して小さくはありません。
「あのデスラー総統が生きていた!」というだけで驚き、ワクワクして見ましたが、決して(この作品では)主人公にはなれない存在でした。しかしながら、最後に放った一言、悟りを開き改心(?)したかのような行動に「死なないでくれぇ!」と涙したのは私だけではなかったでしょう。
このエピソードが元でデスラーの新しい方向性が確立されます。「宇宙戦艦ヤマト2」を経て、新たなる旅立ちへと昇華(宇宙戦艦ヤマトⅢ、デスラーズ・ウォーは別として)します。西崎氏は「新たなる旅立ち」を「宇宙戦艦ヤマト 新たなる旅立ち デスラー編」と呼んでいました。この件については、後日、発表の機会を見つけます。
また、デスラーの登場は、この「さらば~」の世界観をより深いモノにしたと思います。デスラーとの一戦で深く傷ついたヤマトとユキ。しかし、デスラーの今際の言葉が難攻不落と思わせた白色彗星帝国戦への糸口へと導くのです。今回は、デスラー総統の勝利を確信して母艦を進める凛とした表情。腹心の部下を失って落胆する表情。正にデスラーの生き様を如実に表す2枚をセレクトしました。
実は、タラン将軍の超格好いいショットもありますので、次回(「Proud of YAMATO Visual Book BL」をお楽しみにしていてください。
83ページ 土方と古代
ロードショー別冊などではお馴染みの、古代が土方に艦長就任のお願いをするシーンですね。
ヤマトは、艦長不在のまま出港してしまったので、当然、艦長が必要になるのですが、このシチュエーションを考えついた制作陣の物語の組み立てには頭が下がります。
物語の途中から艦の責任者=艦長を乗せるというのは、なかなか難しい展開だと思います。
古武士的な土方艦長の熟慮に熟慮を重ねた末の判断。古代達を説得して地球に引き返すオプションもあったでしょうが(敵の強さを身をもって知っているわけですから)、そのまま艦を進める決断。自らの進退問題も含めての重大な責任。それらのストリーの流れを汲んで、古代を横に遠くを見つめる土方の表情が全てを物語っています。
この1枚の絵の持つ重みは「さらば~」の中にあって貴重なモノだけにカットされてしまったことが惜しまれます(と思います)。(土方の心情とバックグランドは、艦長席に着いたときの意思の表明で現れていますからカットされてしまったのでしょうね。舛田監督は、ホントばっさりと切りますね。復活篇の時もそうでした。脚本の決定稿を一旦持ち帰って、次の会議の時に自身がカットした脚本を持ってきたのですが、これが情け容赦のない切り方で、西崎監督を初め脚本家の皆さんも絶句するほどでした。私は、舛田氏がカットした脚本を、そーっとコピーして今でも隠し持っています。その理由は、後ほど)
82ページ 土方とユキ
このカットは劇場未公開カットです。
土方艦長を「ゆうなぎ」から救出し、手術を終えてからのシーンとなります。第一艦橋で古代の状況報告があって、その内容を病室でモニターしているというシーンです。次のページの古代と土方は、その流れを受けてロードショー別冊でも使われていたので、ご覧になられた方も多いと思いますが、本カットを目にされた方は少ないと思います。ひおあきら氏のコミックの中には描かれていましたが、本編と同じ絵でみることが出来るのは「さらば~」ファンとしては嬉しいことです。
ヤマトの資料の中には「さらば~」の未公開、NGカットのフィルム(35mm)があって、タイミングが合わなかったカットや、いま見てもこれはNGじゃ?と思われるようなカットもあります。テレサが幽閉されている地下空洞から現れるシーンでは、テレサの後ろから発せられる光(後光?)が円を描いて現れたり、棒状に放射されたりといったテストショットも存在しています。そして驚くべきは、幻のラストシーンとも呼べるカットが存在していたことです。現在の制作システムならオールPCですから、映像のファイルにタイムスタンプといって日付、時間が記録されているのですが、フィルムになってしまうとそれがいつ現像されたものかわからないので、知る手がかりがなく悔しい思いをしています。貴重なフィルムななので「Proud of YAMATO Visual BOOK GD」にて公開できればいいのですが。(フィルム缶には、撮影、現像所から必要な情報が書き込まれたメモが入っていたり、ラベルが貼ってあるのですが、細切れに押し込まれていると、もうなにがなんだかわかりません。
ユキがしっかりとフォローしているのがいい絵ですね。
81ページ 島大介
島君は、サルガッソーのシーンからです。島君は、一応サブキャラクターという立ち位置でしょうけれど、古代と喧嘩をしたり、「2」では、テレサと恋仲に落ちたり、「Ⅲ」では艦長に就任する古代に嫉妬したりと、他のサブキャラクターよりも存在感をだしていましたね。「完結編」での最後の告白は涙なしでは見られませんでした。あのシーンで「2」のテレサを少しでも思い起こしてくれたらと願ったのは私だけではないはず。その完結編の資料の中にまじって、島を見守る古代と雪のセル画がまとめて出てきました。もう一度、撮影し直したかったのでしょうか。完結編のセル画の中には、もう一度撮影したいという願いから保存されていたものがあります。
さて、島大介で忘れてはならないのが声をあてていた(いまはCVという)仲村秀生氏です。氏の声は、島にとてもマッチしていたと思います。第1作目のオーディションでは、古代役だったというから驚きですが(※注:私の記憶違いかも知れません)、紆余曲折を経て決定された配役に誰も異論はないでしょう。ファンレターの中に相談事が含まれていると島の気持ちになって書かれていたとのことですから、役に徹する心構えはさすがです。
声優といえば、西崎氏も声優として参加されていたのはご存じでしょうか?本人が語ったので間違いはない(?)と思いますが、デスラーの伊武氏が不在時に代役でデスラーをやったとのことです。第1作目のDVDを1話からよく聞き直してください。「新たなる旅立ち」まで聞く頃には判明していることでしょう。
で、今回の「絵」ですが、キャラクター描写のうまさを感じていただければと思います。表情とデッサン力です。あまり巧くないアニメーターが描くと胴体が薄っぺらくなったり立体感がなくなります(薄い昆布がクネクネ折れて座っているようにみえる)。この1枚と、前ページの2枚は、本編の中でしっかりと使われているカットです。
余談ですが、80ページのカットは、カメラで撮影し、81ページのカットはスキャナーで取り込んでいます。これは技術的な事とサイズによるのですが、どちらも一長一短ありましてできあがりの「味」のようなモノになります。スキャナーで読み込むとセル画の厚みまで出てくるので面白さがありますね。
80ページ 真田、アナライザー、そして太田
真田さんファン、太田さんファン、そしてアナライザーファンのための1枚。
ページの構成上、3人が同時に映っていて、印象的なカットを探さなくてはなりませんでした。「さらば~」のなかで数少ないハッピーなシーン(ぬか喜びともいう)で、その時の空気を一番感じ取る事ができる、キマっているカットを選びました。アニメーションは静止画の連続で「動き」を表現しますから、1コマだけ見ると「止まっている」絵を見ることになります。が、このシーンは、1枚の絵なのに「動き」を感じさせてくれます。コンテの巧さと作画の巧さですね。真田さんの表情がキマっているカットといえば、同作の「古代、立派な艦長になるんだぞ」のシーンで顔のアップになり、光が多重露光するところですね。あれは劇場用のフィルムから撮らなくてはなりませんから今回の趣旨に反します。残念ですが「さらば宇宙戦艦ヤマト~愛の戦士達~」の究極的な豪華本の出版までに温存しておきましょう。本家のアカデミーが出版した「豪華本」には、当時としては珍しい、シナリオの決定プロセスが事細かに記されていて制作の過程を知るには絶好の教科書となりましたが、肝心な「絵コンテ」についての記述は一切ありません。スケジュールの中にも、シナリオの立ち上がりからラストシーンの重要な打ち合わせが何度もされていることはわかりますが、「絵コンテ」について、いつどこで描かれていたのかさえ触れられていません(完結編は、白壁荘で描かれたのが有名)。意図的だったのかも知れませんが、シナリオと並んで「さらば~」の重要な『生き証人』とも呼べる資料ですからこれを見ずに「さらば~」は語れないと思います。特に「出来上がったシナリオは5時間近くあって」とか「4時間の物語が」といわれていたわけですから(上映時間は、恐らく原稿用紙換算だと思われますが)その全容を知るためには「絵コンテ」の解析が必要です。その重要な「絵コンテ」は、「決定稿」から上がってきたものを書き上げた「第1稿」と、何度かの打ち合わせ後に改訂された「最終稿」が存在しています。「第1稿」は、鉛筆の黒鉛がこぼれ落ちる程の生の原稿で、現在は、切り貼りしたセロテープが経年変化で粘着力を失い、バラバラになってしまうのを防ぐために1ページ1ページ丁寧に補修中です。補修が完了後、公開を予定しています。この「絵コンテ」はスタッフに配布された当時のコピーモノではなく原版です(当時のコピーは、濃淡の表現が苦手で濃い線のみ写し取っていた)。これを1枚1枚スキャンして、最新の印刷技術でプリントしますから、微細で生々しい手書きの世界を堪能できます。シナリオにあって本編でカットされた幻のシーンもたっぷりと含まれています。例えば、テレザート星からの帰路で、ヤマトが瞬間物資移送機を使った駆逐艦からの不意打ちを食らうシーンでは、メインクルーが作戦室で「ワープを重ねれば太陽系に入る前に白色彗星に追いつける」といった立案をしていますが(ひおあきら氏のコミックには掲載)、そのシーンですら更に多くの会話がなされていて緊張感を高めています。ファン必見の一品です。
78,79ページ ユキと古代
2人の出会いや成長を今更、私が語る必要ないと思います。宇宙戦艦ヤマトを見ていた一人一人の胸中に深い想いがりますから。
第一作目の最終回で「だって、古代君が死んじゃう!」とコスモクリーナーDを操作するユキ。「私には神様の姿が見えない」と嗚咽する姿に涙した人もいることでしょう(あ、想いをかいちゃった)。この2人が居て宇宙戦艦ヤマトのストーリーは成り立っていたのです。
「ヤマトよ永遠に」でのアルフォン少尉との邂逅。シャッターが閉まり退路を断たれた雪の前にゆっくりと姿を現すアルフォン少尉。命を助けてくれた恩人でありながら彼を撃たねばならない辛い決断。そんな極限状態へと追いやられる瞬間の一枚がこれです。
実にいい表情をしています。
もう一枚は、涙ながらに真田と斉藤を残して立ち去る古代。このシーンでは涙が止まらずスクリーンがよく見えなかったのではないでしょうか(デスラー艦内へと進むシーンと背景画がおなじですが許してください)。
当時の制作余談ですが、動力炉へ渡る橋を挟んで、真田が古代に「行け!行くんだ!」と叫び全ての音がミュートされるシーン。川島和子さんのスキャットが入り観客の私達は涙がとめどなくこぼれてくる。「さらば」の忘れられぬ名シーンですが、ここでスキャットを入れようと提案したのは音響監督の田代敦己氏だったそうです。いつも適材適所、いい音楽をつけてくださいました。
そして、復活篇のスペシャルアドバイザーという肩書きで、やはり音響監督的な立場で参加されていましたが、最後まで西崎氏に意見を言える貴重なスタッフでした。クラシック音楽を使うこと、戦闘シーンでの音楽の使い方を最後まで気にされ自分の意見をぶつけていた光景がいまでも思い起こされます。その西崎氏は田代氏から音楽をつけるタイミングや選曲を学んだんだと話していました。ヤマトは、ドラマ、映像、音楽。この3つが織りなすハーモニーによって出来ている作品ですから氏のは存在感は決して小さなものではありませんでした。
1枚の絵を見て、音楽が浮かび、セリフが浮かぶのは、宇宙戦艦ヤマトならではです。
77ページ クイーンオブアクエリアス C type
この絵の描かれた紙は、ページをよく見ていただけるとわかりますが、エンボスのかかったちょっとざらついた画用紙です。この絵はカメラでなくスキャナーで読みとりました。近年、PCを取り巻くハードウェアの環境は高性能且つ低価格化が進んでいて、ちょっと前は数十万円していたハードウェアが、数万円台まで下がっていることも珍しくありません。今回の書籍で使用したセル画や背景画の一部はスキャナーを使って読みとっていますが、水分を吸ってデコボコになっている絵も、ピントが狂うことはありません。試しに立体物をスキャンしてみましたが(顔とか手とかフィギュアとか)かなり正確に読み込んでいます。作業用のPCですら、マルチコアでCPUは2つ装備され、それぞれがハイパースレッディングテクノロジーを採用していますから実質4つのCPUが機能しているかなり贅沢な作りです(といっても今では入門機ですね)。メモリーも4Gほど積んでOSもつけて、ブルーレイの記録までできて5万円を切っているのですから、凄いものです。
最新のハードで、30年前の作品を取り扱うというのはなんとも不思議なものです。
さて、本題に戻りますが、このアクエリアスは解説の部分で「チラシに使われているものは裏焼き」と記していますが、他の資料を見ても裏焼きで使われているものが殆どでした。そして、このクイーンオブアクエリアスも、ご多分に漏れず似たようなコンセプト(淡い水彩画のようなブルー)で描かれた作品が何点かあります。微妙に表情が違っていて、一番、優しそうな表情をしているイラストを採用しました。「愛とは決して甘美なものではなく」と語りながら惑星を水没させてしまいます(ディンギル星のように大爆発してしまう星もある)。綺麗なバラには棘があるということですね。
氷のように冷たい表情の中にも、強さと優しさの同居するこの絵が一番ステキです。