遅ればせながら「風立ちぬ」を見ました。

第一声を聞いた時「だ、誰だ?この声は?」と、ちょっとだけ驚きました。

「となりのトトロ」で糸井重里氏の声を聞いた時にも偉いスティック・リードだなぁと思ったのです。声優さんや、作品内容については賛否両論で議論は尽くされていると思いますのでそちらに譲るとして、率直な感想として、この声優さんの声に『味』を感じました。

朴訥(ぼくとつ)として抑えめ、普通の声優さんのイントネーションではありえない味付けです。宮崎氏は、スティッキィーなボイスに魅力を感じるのでしょう。私も段々と感化されてきました。私の次回作には,監督ではなく声優でお願いしようと妄想しています。恐らく「風立ちぬ」という作品の目指すものとして、あの声優さんの声が必要だったのでしょう。

さて、その独特な『味』という部分で、西﨑義展氏が面白いことを言っていました。といっても車の話しですが。西﨑義展氏が愛したクルマはアメ車でした。特に大きめの、いわゆるフルサイズと呼ばれるアメ車です。アメリカは道路が広く舗装が悪いので、サイズが大きく、ぼよんぼよんに揺れまくるサスペンションが売り物です。

私のそれまでのアメ車に対する認識は、「キロいくら?」と鉄の重さで勘定される?程度でした。しかし、大のアメ車好きの西﨑義展氏が長旅から帰って来て最初の購入したのは、リンカーン・シグネイチャでした。これがまたバカがつくほど大きいのです。標準的な日本車に比べ縦横で1.5倍はあります(カローラ比)。都内のコインパーキングに入れると横幅が広いのでドアを開ける隙間がなくなるほどです。一番奥まで入れても前輪より前の部分がはみ出ます。競馬いうと一馬身リード的な風情があります。その次に購入したのも2006年式リンカーン・タウンカーです。

ある日、やむを得ずトヨタのフラグシップであるレクサスLSに乗ることになりました。いわゆる優等生的な車で、ハンドルを切ればその通り曲がるし、サスペンションも段差を綺麗に吸収してサラっと走り抜けてしまいます。装備も至れり尽くせりで、育ちの良いご学友と図書室で本を読んでいるような感じです。

対して、リンカーン・タウンカーは、違います。日本では1000万円を越えるプライスタグを付けていますが、細かい事は気にしている様子はありません。適当にドライブする4速オートマ、ドアミラーぐらい自分でたたんでください、ガソリンは1回の給油で1万円近く入りますが、少し走ったらすぐに給油してください、エアコンの温度表示が華氏と摂氏をいったりきたりしますが気にしないでください、あまり細かい運転をせずダイナミックに走ってください、横幅が2m近くあって左ハンドルなので、反対側車線を見るのが至難の業って感じで、何かとコツを掴まないと日本の道路事情には適応出来ない車でしたが、まぁ慣れてくればこちらのモノ。狭い道でも、小さなコインパーキングでも、そこでもすいすい走れるようになりました。車の見た目が良い方ではなかったので,(品行方正な僕を捕まえて)「どこの組ぢゃ?」って聞かれたことがありました。

レクサスLSを乗っている時に、西﨑義展氏がポツリと「この車は『味』がないなぁ」と一言漏らされたのを今でも鮮明に覚えています。練馬から自宅への帰り道でした。

作品のスパイスとして『味』つけは必要ですよね。

 

※リンカーンは、本当に大きな車で、前の席には中央席の分としてもシートベルトがついていました。大人3人が横一列に座っても窮屈ではありませんでした。日本では、一度、ホンダがエディックスという名前で商品化しましたが中央に乗せるのは子供という設定でした。

※リンカーン・タウンカーは、こんな車でした。こちらをクリック